マキノ雅弘の作品がもっと評価されますように
鴛鴦歌合戦を聴く。
布教活動という事で一押しの「マキノ雅弘」監督を紹介する。
日本の映画・芸能の一家 マキノ家の要
日本映画の父 牧野省三の長男
生まれながらの活動屋 マキノ雅弘である。
日本の映画界というのは牧野省三から始まった。
かれは文字通り私財を投げ打って日本映画界を立ち上げた。
日本映画界の出発というのは基本、家内制手工業なのである。
私財というのは人的私財も含まれ、マキノ雅弘は幼少の頃、役者として映画人との人生をスタートさせる。
父に反発もあり、一度は映画から離れるが、まぁ、色々あって映画界に戻ってくる。
彼の人生は、彼の作る映画同様、はちゃめちゃに面白いので気になった人は
こんなのを読んでみると楽しい。「地の巻」「天の巻」と2冊出てるよ。
サービス精神旺盛な監督なんで話がでかくなってる部分は沢山あると思うけど、うっかり全部本当かと思うぐらい面白いよ。
日本映画界、黄金期の息遣いも感じられてワクワクするよ。
おすすめ。
まぁ、今回は作品の布教活動なので作品の紹介をする。
「鴛鴦歌合戦」
撮影10日間で取り上げたという伝説の映画。
早撮りで有名なマキノ監督にしても異常な速さ。
主演の千恵蔵の撮影時間はたった二時間。企画から完成上映までわずか四週間という荒業。
時間とお金をかければいい映画が出来るわけではないというのを見せつける、最高の娯楽映画である。
脚本なんか書いている間はなかったし、役名も考えている間がなかった。志村喬の役名は「志村」、香川良介は「香川屋」、市川春代は「お春」、服部富子は「お富」、深水藤子は「藤尾」、ディック・ミネは「峰沢丹波守」
マキノ監督が話を作りながら映画を撮ったらしい。
全てが同時進行。
ちょうど『宮本武蔵』(1940・稲垣浩)の二部と三部の間に撮られたもので、その優秀な(笑)メンバーがそのままの移行でカメラは「宮本武蔵」と同じく宮川一夫で絵日傘のシーンなど美しいシーン続出。
映画の運もあったと思われる。
一度聴いたら覚えられるそのフレーズの数々は楽しくて仕方ない。
いつもすかしてる千恵蔵のギャグテイストも楽しい。
志村喬の歌のうまさにびっくり。
純粋な娯楽映画。お正月にお酒飲みながら見るのにぴったりな映画だよ。
はいか版が1000円で出てる。購入して損はなし。
・・・・自分は以前、愛蔵版を購入したけどな。
もう一本は「次郎長三国志」
全部で9本あるけど、1本で紹介だ。
なんだ、映画の素晴らしさ、面白さ、かわいらしさのすべてが詰まってる作品。
カンヌやアカデミー賞を取る事は決してないだろうが、娯楽らしい娯楽がなかった時代に、庶民の為に、映画を(もしかしたら映画だけを)楽しみにしていた人たちにまっすぐ届けられた作品。
「七人の侍」(1954/黒澤明)の撮影のために「殴り込み甲州路」はクライマックス時に「ブタマツコロセ」の電報がやってきた。豚松役の加東大介は撮影中に引き抜かれ、マキノ雅弘はシナリオなしでラストを撮ったという。
外国向けに作った時代劇も美しいが、日本の庶民のために作った「次郎長三国志」の美しさももっともっと評価されていいと思う。
内容は正直に言うとひとりでは半端ものでやっていけない人たちが集まってみんながみんなの為に生きる。みたいな感じかな。
わいわい、皆で酒飲んでるシーンが一番多いような気がするよ。
そっか、それだったらワンピース終わらないよ。
だって、次郎長三国志、未完だし。
完成度より別の所に大切なものがある作品群だから。
新人、森繁久弥の可愛らしさが大爆発だったり、男の「あほな純情」があちらこちらにみられたり、日本の芸能の一つの頂点である張り子の虎三(廣澤虎三)の歌声を聴くことが出来たり。
女の人がかわいく、かっこよく、いじらしかったり。
男の人が情けなくて、かわいくて、かっこいい。
ワンピース ストロング・ワーズの解説で内田樹先生が「昭和残侠伝」とワンピースの共通性を語っているが、やっぱ「残侠伝」より「次郎長三国志」だと思う。
なんというか「残侠伝」よりもっと、ほのぼのしてて、野暮ったくて、いじらしいんだよ。
もっと仲間、仲間してるんだな。
勿論、内田先生は次郎長三国志も知っていて、世の認知度から「昭和残侠伝」を引き合いに出したと思われるけど。
「3丁目の夕日」でやりたかったすべてが多分ここにあるよ。
岡本喜八監督が助監督を務めたシリーズでもあり、後半は監督業もなかば岡本喜八がやっていたという作品。
日本映画界 青春の1ページだね。
とにかく、活動屋とか、活動写真とか、牧野組とか、失われつつある日本映画界の匂いがそこかしこに感じられる作品だよ。
尾田栄一郎のカバーイラストでDVDが出直し、レンタルでも見かけるこの頃、ワンピースファン、日本映画ファンが一度は押さえておいて損はない作品だ。
必見。