白川静の世界 Ⅲ 思想・歴史

入門講座 白川静の世界 3 思想・歴史 (立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所叢書)

入門講座 白川静の世界 3 思想・歴史 (立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所叢書)

ネタバレ有り

満足感 星5

内容 
白川静と中国古代思想と」「白川静と中国古代史」から成る。解題として「孔子伝」「周公旦」「訓話における思の形式について」「殷の社会」「殷の基礎社会」
「甲骨文の世界ー古代殷王朝の構造」「金文通釈」「金文の世界ー殷周社会史」
「回想90年」「桂東雑記1−5」「桂東雑記 拾遺」が付く。白川静の入門書の第3部。思想・歴史について語られる。講義形式の記述となる。
白川静の多岐にわたる研究の入門書となる。
彼の歴史、古代思想の研究は多岐にわたり、そしてそれぞれが深いため、全貌をつかむのは大変難しいが、本書はわかりやすく読み解いていく。
また、刊行が待たれる辞典的な「白川学ハンドブック」の姉妹編となる。白川静の全体像を把握できる本格的入門書を目指すという意欲的な作品となっている。
執筆者が多岐にわたるため、内容もそれにふさわしく、多岐に、そして示唆に富んだ内容となっている。
白川静生誕100周年にふさわしい内容となっている。
彼のその仕事の全体像を1冊や3冊の本にまとめるというのは無理があるがその一端に触れることは成功しているだろう。

書評
白川静の80年にも迫るその仕事は質量とともに他を圧しているのは誰もが認めるところだろう。
その世界を俯瞰しようとしても難しく、どこから手を付けていいか判らない者も多いかと思う。何を隠そう自分自身もその一人だ。
その水先案内となる3冊の入門書のうちの1冊が本書となる。
立命館大学白川静記念東洋文学文化研究所の手による入門書だ。
執筆者が多岐にわたるため、内容も多岐にわたる。矛盾、重複する内容もあるが、編集にあたった方々の誠意ある行為の結果といえよう。大体、理解には重複はありがたいし、
実際矛盾は判らない物が多い。
白川静の学説は従来の学説との相違点が多いためそれを比べて提示してくれる本書は勉強するにはもってこいのテキストになっている。
なんといっても講義形式で進んでいくため、解りやすいというのも読者にとっては恩恵をもたらしてくれる。
参考文献が多いので本書だけで全てを理解する事は出来ないが、その手がかりとはなる。
中国古代思想では、儒論、孔子論、荘子墨子観、司馬遷論と展開される。
かなり解りやすい。
孔子論については白川静は何度も筆を執り我々に様々な事を伝えてくれるが、いかんせん、その資料と仕事は膨大すぎて全体像を把握するだけでも四苦八苦する。
こうやって簡潔にまとめられるとわかった気になれて気持ちがいい。
中国古代史では殷の時代、殷周革命、周の時代と分け、丁寧に読み解いていく。
白川静の仕事の大きな柱である漢字への言及もあり、興味深い。
索引が丁寧であることも本書のありがたい点である。これによって迷うことなく様々な要因を読み進んでいくことができる。
白川静の言葉をその弟子たちが語ることにより、ある意味白川静の言葉を直接読んでいくより、彼の言葉の本質に迫ることができる。
中国の歴史は長い。その古代史は本当に長く、変化に富んでいる。その世界に単身で果敢に挑んだ白川静の仕事はもっと評価されるべきだ。
それは決して古びることなく沢山の学びを我々にもたらしてくれる。
甲骨文、金文など、我々日本の漢字文化に通じる漢字についての解説はそれ自体、美しく、興味深い。
解題についてもこれだけきちんとまとめられているのに好感を感じる。
3冊、読破すれば、白川静について解ったような勘違いさえさせるかもしれない。
短い文章が続くため、頭から順番に読むのもいいが、興味のある内容から前後して読んでいくのも楽しいだろう。
勉学は実は快楽である。ということが実感できる。
孔子という物語、司馬遷という物語、人というのは実は一つの大きな物語である。そしてすぐれた人物はすぐれた物語であるということも実感できるようになっている。
中国古代史は誰にとっても難解で膨大な学問だ。
特に白川静のフィルターを通すとさらにその複雑さは増す。
正直、どこから手を付けていいか判らないほどだろう。そういったときこの本書のようなテキストが手がかりとなってくれる。
とにかくページを開き、どこでもいいから読み進めていくこと、または眺めることから始めてみるのがいいかと思う。

読むべきポイント
まずは白川静のその圧倒的な世界に酔うこと。

多岐にわたる仕事に対しての白川の言葉を楽しむこと。

あくまで本書は入門書である。これだけで満足してはいけない。字統などの字書類、漢字—生い立ちとその背景などの漢字研究本などに進むことが求められる。