ミヒャエル・エンデの教えてくれた事 読了

ミヒャル・エンデが教えてくれたこと
ネタバレ有り
内容
「モモ」「果てしない物語」「ジム・ボタンの冒険」など沢山の児童文学と絵画と大人向けファンタジーを残したミヒャル・エンデの歩みと私生活を未発表の絵画などを交えて紹介。世界を大恐慌に陥れた「黒い木曜日」の約2週間後に生まれ、第2次世界大戦の中で青春期を過ごしたエンデの波乱に満ちた人生を振り返る。
 孤児院で育った女生徒の出会い。貧乏画家であったエンデの父親と女性との結婚。
経済悪化の為おんぼろ部屋への転居。名門校への入学準備と落第、戦争の中での思春期。戦後シュタイナー学校での演劇の目覚め。友人の勧めで書き始める「ジム・ボタンシリーズ」。イタリア・ローマ近郊在住中の「モモ」制作秘話。「はてしない物語」の完成、ベストセラー、そして映画化の陰にあったトラブル。映画をめぐる裁判に負け、妻を亡くした後に襲う大切な人々との別れ。そして、再婚。闘病を続けながらの執筆活動。沢山の未発表絵画と写真。日本への傾倒。信濃町黒姫童話館の紹介。すべてがエンデと出会いなおす旅となる。

評論
エンデは画家で作家で演劇人であった。父親が画家であったためという訳ではないだろうが、この環境がエンデに及ぼした影響は計り知れない。経済的には貧しくとも豊かで刺激に満ちた幼年期、思春期、青年期を過ごすこととなる。
 本書はそんなエンデの軌跡を彼の絵画とふんだんの写真、様々な識者からの考察からなる。日本との関わりも外せない要素であろう。
 エンデの邦訳文芸作品31冊の解説もカラーで編まれている。それは眺めているだけでうっとりするほど美しい。「果てしない物語」「モモ」だけでなく、隠れた名作「鏡の中の鏡」「影の縫製機」「誰でもない庭」「エンデのメモ箱」などの紹介がうれしい。
佐藤真理子との結婚生活の写真も微笑ましい。彼が60歳を超えて精力的に執筆活動をする中、病魔に冒されるが、その中でも執筆活動を続けるエンデの執念とその秘密に迫っていく。「お金は変えられます。人間がつくったのですから」「いつも予め結果を知りたがる人は、決して、精神と生の、真の冒険に身をゆだねることができません。」など彼の言葉は鋭くそして、人間への根源的な愛情と許容、包容力に満ちている。
廣田裕之の「エンデが夢見た経済の姿」は「モモ」「エンデの遺言」を例に挙げ丁寧に優しく、彼の経済とお金の話をひも解いていく。
山拓央の「「モモ」と2つの時間」では「モモ」の灰色の男たちを挙げ、時間の空間化、「幸せになること」と意味と意義。哲学の分野での時間の定義を優しく、正確に読み解いていく。
「ユーモアは子どもたちに、人は失敗するし、失敗してもいいんだと語ってくれるからです。」と語るエンデは最後まで大人であり少年であって、男でもあり、女でもあった事をうかがわせる。「闇の考古学」では父との関わり、世界との関わり、不条理を物語っていく。
彼の入門書としてはうってつけの1冊となっている。

読み取るべき点
読み取るべき点というよりは感じるべき点とした方がよいかもしれない。
まずは彼の絵画の世界に酔ってみるのも一興かと思われる。未発表のそれらの絵画は彼の作品をまた違った面から捉えなおすことが出来る。それだけでなく絵の美しさに身を任せるのも楽しい。
エンデの言葉をたどる楽しさ。彼の言葉はやはりそれぞれの本を読んでみたいところだが、エッセンスだけでも十分に楽しい。ここから沢山のヒントを得ること出来る事だろう。
エンデの文学、詩、戯曲の世界への入り口。
これでもかと紹介されるエンデの著書、そしてエンデの周辺の著書は眺めるだけでも楽しめる。これを手掛かりにエンデの世界に出会う、または出会いなおすのも楽しいと思われる。
満足感 星5